恋恋と、赤赤と。大きい口だなあ。カリカリに焼いたポークハムをかぶせ、薄焼き卵と海苔で包まった俵形のおにぎりを、顎の開く限りに齧り付く赤井 真健二(あかい まっけんじ)の横顔を今日も眺めそんなことを思う。拳ほどのそれをものの二口、三口で平らげて行く。それも三つもだ。三つ目のおにぎりを咀嚼し終え、飲み下した所で彼が気付いた。僅かに怪訝な顔をして、唇を尖らせる。「なに見てんの。」にこりともせず、しかし気安い調子で彼は言う。「豪快な早弁だなと思って。」「阿閉(あとじ)もさっき食ってたじゃん、まあまあデカいメロンパン。」と、確かに先程こちらも大口を開けて平らげたメロンパンの件を持ち出され、見られたのかと下手を打った気分だった。朝食を食べて大体三時間が経過し、...09Nov2020originalnovels.index
1.ご縁ありまして。1.この島と暮らす、きみのこと。薄く開いた出窓から、網戸越しに聞こえる蝉の声に目を覚ます。露に湿った草花の匂いが僅かに涼しさを運んでくる、ようやく季節は十月。ここではいまだ蝉が鳴き、一年の大半はTシャツで過ごせてしまうので、暦の上の出来事だけではあまり実感が湧かなかったりもする。少し前まで、携帯のアラームを五回鳴らしてようやく七時に目を覚ましていたが、今となってはアラームを掛けずとも六時前には起床出来ているから不思議だ。日本列島を南に下った所、沖縄県の少し手前。本土とも沖縄とも明らかに異なる文化や風習が、色濃く息づく程よく手狭な離島。叶曜(かのうひかる)は、そこで生まれ十八の年の頃まで育まれた。島に暮らす子供たちの大半は、思春期を過...28Oct2020originalnovels.